新帝国主義って本当ですか?5 トランプの平和主義



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2024年9月12日副大統領になる前のJ・D・ヴァンスがメディア・インタビューに示したウクライナ停戦案は次の通りだった。

・ロシアは現在占領している領土を保持する

・現在の戦闘ラインに沿って非武装地帯を設ける

・ウクライナ側はロシアからの新たな侵略を阻止すべく厳重に要塞化される

・ウクライナに残った領土は独立した主権国家として残る

・ロシアはウクライナがNATOその他の同盟組織には加盟しない中立の保証を得る

バンスはトランプとは考えが違っていた。

最も重要な相違点は「ウクライナが主権国家として残る」ことをバンスは大事だと考えているが、トランプはそう考えていなかった。トランプは、ウクライナの主権(独立)なんて「平和(戦争で人が死なないこと)」に比べれば大したことじゃないと考えてたことだ。トランプは弱い国(ロシアの宣伝によれば悪い国)の自由や独立はどうだっていいのである。

★閑話休題。トランプの考え方はわが国の戦後80年の平和主義とよく似ている。九条原理主義的平和主義の「何が何でも戦争で人が死なないこと」が正義だというのとそっくりです。
自衛のためでも自由のためでもとにかく弱い国の戦争はダメです。
この戦争はウクライナが悪い。ウクライナが戦わなければ戦争にはなっていない。ロシアが平和的に占領するだけでウクライナは平和だった。そうすればウクライナ人は死なないし、アメリカも大損しないですんだ。

★そして最近の日本の奇観は、わが国のトランプファンが同じことを言い始めてしまったことです。ウクライナの主権なんかどうだっていい。平和が大事だよ。トランプバンザイ! 
ぼくも平和は好きだけど、「自由と独立のためには命をかけて戦う」という心意気が衰退していくのは残念な気がしています。

★また、この転向は単純な平和主義化ではなくて、ウクライナ戦争についてのプーチンのプロパガンダ(アメリカがプーチンを戦争に追い込んだ、ウクライナはナチスだ、ウクライナがロシア住民を虐殺した等々)をまるごと信じしまった結果でもあり、彼らがリアリストではなく単純な善悪主義者だった(プーチンは悪でバイデンは善、その裏返しでバイデンは悪でプーチンは善、トランプとプーチンは善でウクライナは悪みたいな)結果でもあるようです・・・これが余計に情けないのだけれど。

話を元に戻そう。

「これに対し、2024年6月14日、プーチン大統領は、

・ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、ザポロージェ、ケルソン地域からの軍隊の完全撤退

・ウクライナの中立・非同盟の立場、非核化、非武装化、非ナチ化

・2022年のイスタンブール交渉での非武装化に対する具体的内容も含めた、大筋の合意の履行

・ウクライナでのロシア語を話す市民の権利、自由、利益の完全な保護

・クリミア、セヴァストポリ、ドネツク・ルガンスク人民共和国、ヘルソン、ザポロージェ地域がロシア連邦の一部である事を含む、新たな領土の現実の承認

・これらの基本原則を将来的に基本的な国際協定によって正式に定められる

・欧米の対ロ制裁の撤廃

という7項目を挙げ、ウクライナがこのプロセスを真剣に開始すれば、ロシアは遅滞なく速やかに和平交渉を開始する用意があると発言していた」畔蒜 泰助(笹川平和財団主任研究員)による

プーチンが戦争を始めたのは「ロシアの安全保障」のためである。そのためにウクライナを取るのだ。すぐには取れないとわかったので、停戦条件に「東部諸州他の領土化」や「ウクライナの非軍事化や非ナチ化」などを上げた。しかし当初の戦争目的だった「ロシアの安全保障のためにウクライナをまるごと取る(非主権化・ロシア領土化)」は捨てていない。それはプーチンの「停戦後の次の仕事」になる。

最近の動きを見ると、バンスはトランプの「平和主義」を受け入れたように見える。
とにかく停戦だとなっている。そのためにレアアースはもらおう(さんざんムダ金を使わされたからその返済だ)。
停戦後はヨーロッパに任せる。ロシアはウクライナを取りに行くかもしれないがアメリカは関知しない。最近のバンスの行動は半年前の冒頭の発言とは違っています。

この流れはまさに新帝国主義に見えます。主権はいくつかの大国(核保有)にだけある。その他の国の主権は制限されるまたは無効である。

★トランプがアメリカの保守主義の美点を継承しているのは確かだし、リベラルの極端化を押しとどめていることに賛同しているが、だからといってトランプのやることはすべていいなとはなりません。
アメリカファーストはやむをえないけれど、現時点でのこの「平和主義」はあまりにも無責任ではないかと思っている。今ある世界はアメリカがつくってきたのだから、これから世界から退場していくにしてもそれなりの作法があるはずだと思う。
それ以外でも「それみたことか」というときが必ず来る。安倍さんもそうだった。権力者の信者になっちゃだめです。

この流れを、アジア一極でやるやめのトランプの戦略と見る立場もある。
プーチンとはうまくやって習近平とだけたたかうためだと。
それもあるだろうがどうかなと思う。安倍さんはロシアをチャイナから引きはがして北方領土を何とかしようとしたが、露中は引きはがせなかった。しかもトランプは今まで一度も「台湾を守る」と言ったことはない。ある日突然、毛沢東と握手しちゃったニクソンみたいになる可能性もある。アメリカファーストであり「自由と民主主義」のために中国と対立しているわけではないのだから。

アメリカファーストだからディールしだいで何でもありの世界にしばらくはなりそうだ。
弱小国にしてアメリカの属国である日本には選択肢はあんまりない。
ひっとすると米軍の代わりに前線に立つというシナリオもあり得る。属国や植民地はそれを期待される。
だから富国強兵をがんばって、100年かけてもう一度、独立国をめざしたいものです。

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この記事を書いた人

昭和24年、埼玉県生まれ。昭和59年、大宮市の小学校教員に採用される。大宮教育サークルを設立し、『授業づくりネットワーク』創刊に参画。冷戦崩壊後、義務教育の教育内容に強い疑問を抱き、平成7年自由主義史観研究会(藤岡信勝代表)の創立に参画。以後、20余年間小中学校の教員として、「日本が好きになる歴史授業」を実践研究してきた。
現在は授業づくり JAPAN さいたま代表として、ブログや SNS で運動を進め、各地で、またオンラインで「日本が好きになる!歴史授業講座」を開催している。
著書に『新装版 学校で学びたい歴史』(青林堂)『授業づくりJAPANの日本が好きになる!歴史全授業』(私家版) 他、共著に「教科書が教えない歴史」(産経新聞社) 他がある。

【ブログ】
齋藤武夫の日本が好きになる!歴史全授業
https://www.saitotakeo.com/

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