続・中学校社会科「公民教科書」の7つの争点



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争点4 国家論

・かつて社会科の教科書(歴史・公民)を読むと「国というものは悪いものだ」という強い印象が残るものでした。それは教科書記述にマルクス主義の影響が強かったからです。
「国家は支配階級が民衆を支配するための暴力装置である」というとらえ方です。そして歴史とはこの被支配階級が支配階級に抵抗してきた階級闘争を描くことに主眼が置かれました。
その果てに、共産主義革命が起き、支配のための装置だった国家が廃止される。そのために、国家(政治権力)は悪いものでなければなりません。この思想が教科書にも反映していました。

・新しい歴史教科書をつくる会が中学校の歴史・公民教科書に参入して。それまでの教科書の国家観を克服したために、その後少しずつ、各社の教科書にも国家や国家権力の必要性が記載されるようになってきました。
しかし、国家の役割を次のように明確に書いているのは自由社だけです。

・(国家の役割)「歴史を振り返ると、外敵からの防衛は国家の重要な役割でした。また・・・土木工事などを行って、生産と生活の基盤となる社会資本の整備を図ること。そして、法を制定し、法に基づいて社会秩序を維持し、国内に平和をもたらすことも。国家の重要な役割です」
(国家権力の必要性)「・・・そこで社会秩序を維持するために法が生まれました。その法を守るように命令し強制する力が必要になりました。これが国家権力です」

また国家の定義「国家は国民の共同体である」を書いているのも、自由社と育鵬社だけです。

争点5 日本国憲法の成立過程

・自由社以外の5社の教科書は、議会審議における日本側の自由意思を肯定し。日本国憲法の成立過程を合理化している。自由社は、日本側の自由を議会審議においても否定している。また、フランス憲法の戦時下憲法改正禁止規定や戦時国際法の紹介を通して、日本国憲法制定過程の法的ないかがわしさを明示している。

・「議員の追放と憲法改正の審議」 (自由社)
英文の新憲法案を基礎に日本政府は政府案を作成し、3月6日に発表し、 4月10日、衆議院議員の選挙を行いました。1月にGHQは 戦争の遂行に協力した者を公職から追放するという公職追放を発令していました。そのため、この選挙のときは現職の82% の議員は追放されていて、立候補できませんでした。さらに5 月から7月にかけて、議会審議中に
も貴族院と衆議院の多くの議員が公職追放され、新たな議員に代わりました。これらの議員が憲法審議を行いました。

また、当時は、GHQによって、軍国主義の復活を防ぐという目的から、信書(手紙)の検閲や新聞・雑誌の事前検閲が厳しく行われました。GHQへの批判記事は掲載がいっさい認められず、 特にGHQが新憲法の原案をつくったということに関する記事は掲載しないよう、厳しくとりしまられました。したがって、憲法審議中、国民は新憲法の原案がGHQから出たものであることを知りませんでした。

このような状況のなかで憲法改正の政府案は6月から10月にかけて帝国議会で審議されました。帝国議会では、主として衆議院の憲法改正特別委員会小委員会の審議を通じて、いくつかの重要な修正が行われました。たとえば、当初、政府案の前文は「ここに国民の総意が至高なものであることを宣言し」と記していました。小委員会もこの案をその
まま承認するつもりでしたが、国民主権を明記せよというGHQの要求があり、「ここに主権が国民に存することを宣言し」と修正しました。小委員会の審議は、一 般議員の傍聴も新聞記者の入場も認められない密室の審議でした。

こうして可決された日本国憲法は、11月3日に公布され、翌 年5月3日より施行されました。この憲法は国民主権や平和主義などを定め、立憲主義と民主主義をさらに進めています。(58-59ページ)
◆最後の1行は、検定過程で検定側から要求されて記された文である。
★側注② (自由社)
独立国の憲法は、その国の政府や議会、国民の自由意思によってつくられる。したがって、 外国に占領されているような時期には、つくるべきものではない。それゆえ、戦時国際法は、占領軍は被占領地の現行法規を尊重すべきであるとしている。また、同じ考え方から、フランスは、1958年制定の憲法第89条第5項で「領土が侵されている場合、改
正手続に着手しまた はこれを追求することはできない」と規定して いる。(58ページ)

争点6 天皇

★この項は、以下に藤岡先生の資料をそのまま引用する。

(引用)
象徴天皇制(それも消極的な象徴天皇制)に立つ多数派である4社と立憲君主制の方向性を持つ自由社及び育鵬社との対立である。

4社は日本の歴史と「日本国憲法」下の天皇を切り離して捉えるのに対し、自由社及び育鵬社は歴史を踏まえて「日本国憲法」下の天皇を捉えようとしている。

憲法学も公民教科書も第1条から国民主権を導き出し、国民主権について主に論じ、天皇について軽く論ずる、というスタイルをとっている。
しかし、第1条は「天皇- 6は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する
日本国民の総意に基く」と規定している。

条文を読めば明らかなように、第1条の主題は天皇であって国民主権ではない。そう見極めて論ずれば、まず天皇論を歴史や条文に基づき論じたうえで、天皇論に合うように国民主権論について論じるべきではないだろうか。

・国民主権論の論点は、「国民」の中に歴代国民や歴代天皇は入るのか、「主権」とは権威のことか権力のことか、という話になる。天皇論こそが主題だと考えて国民主権論を論ずれば、「国民」の中に歴代天皇と歴代国民を入れるのは
当然だということになる。そして、過去や未来の天皇や国民は権力を持ちようがないから「主権」とは権威のことであるという結論になるのではないだろうか。

・戦後憲法学と公民教科書によって、本来天皇条項である第一条が国民主権条項にすり替えられたおかしさにそろそろ気付くべきではないだろうか。


「歴史に基づく天皇の役割 」(自由社)
天皇は、国家の平穏と国民の幸福を祈ることにより、 長い歴史を通じて国民の信頼と敬愛を集めてきました。日本の歴史において、権威と権力が分離するようになったのちは、天皇はみずから権力をふるうことなく、幕府などそのときどきの政治権力に正統性をあたえる権威としての役割を果たしてきました。 日本国憲法のもとでの天皇も、日本の政治的伝統にならった役割を果たしています。

天皇は「国政に関する権能」すなわち政治権力を行使する権能をもちません(4条)。しかし、内閣の助言と承認に基づいて、さまざまな国事行為をとり行います(6条、7条)。法律、条約、政令なども、この天皇の国事行為としての署名によって、国家の手続きが完了します。また、対外的には、天皇は諸外国から日本国を代表する元首としての待遇を受けています。


★「国民主権と天皇」 (自由社)
このように、天皇は、長い歴史をもつ日本の国民全体の総意に 基づいて、日本国および日本国民統合の象徴として特別な地位に ついています。 そのため、天皇は、政治に対して関与しない立場をつらぬくことで、つねに、国民の一部ではなく、国民の全体を象徴しています。 君主の統治権の運用を憲法で規定することで、国民の自由および国政への参加を保障した立憲君主制は、世界40か国あまりで 採用されています。公正中立な態度を貫いている象徴天皇は、現代の立憲君主制が目標とするモデルの1つとなっています。 (66―67ページ)

争点7 在日韓国朝鮮人

・この項も、資料をそのまま引用する。

(引用)
・在日韓国朝鮮人差別、外国人参政権、ヘイト法という3つの問題に関する記述を見ていく。3者を一緒に扱うのは、以下のような歴史的経緯に基づく。


1965(昭和40)年、朴慶植『朝鮮人強制連行の記録』(未来社)が出版された。この本と家永裁判の影響で、昭和53年度以降のほとんどの中学校歴史教科書で虚構の朝鮮人強制連行70万人説が躍るようになった。この説を根拠にして、平成5年度以降の公民教科書においても在日韓国・朝鮮人差別問題が「平等権」記述の代表例となっていく。そして、在日韓国・朝鮮人以外の外国人が増加していくにつれ、公民教科書でも在日韓国・朝鮮人差別問題を切り口に外国人一般の問題、特に参政権問題について記述されるようになっていく。

さらに、2016(平成28)年、日本人による外国人に対するヘイトスピーチだけを許されないものとし、外国人による日本人に対するヘイトスピーチを野放しにする「ヘイトスピーチ解消法」という日本人差別法が制定された。この法律の正式名称は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」というもので、タイトルからして日本人差別法であることを示している。

普通の国がつくるならば、人種差別とならないように「人種等を理由にする不当な差別的言動の解消に向けた取組の
推進に関する法律」と名付けるからである。日本の議員には、そして法務省の役人も、法の精神は皆無なのである。

・在日韓国・朝鮮人の由来については、東京書籍は、「日本には約44万人の在日韓国・朝鮮人が暮らしており(2021年現在)、その中には、1910年(明治43)年の韓国併合による日の植民地支配の時期に、意思に反して日本に連れてこられた人々の子孫も多くいます」と記している。完全な嘘である

平成22(2010)年3月10日の衆院外務委員会で、高市早苗議員の質問に対して、外務省は〈徴用された者のうち昭和34年の時点で残留していた韓国・朝鮮人は245人である〉と答えた。これで、在日韓国・朝鮮人被徴用者子孫説は完全に根拠を無くしたのだが、東京書籍と教育出版は、未だに、この説を維持しているのである。なぜ、文科省は検定不合格にしないのだろうか。

★外国人に対する差別 (教育出版)
我が国には、かつて日本政府が朝鮮を支配していた際に、朝鮮半島から日本に移住したり、連れて来られたりした人々や、その子孫である在日韓国・朝鮮人が、多く暮らしています。また、1980年代以降は、主にアジアや南米から、多くの労働者や留学生が日本にやってきて、そのまま定住する例も増えています。日本に住んでいる外国人(在留外国人)の数は増加しています。日本に住む外国人は、地域の住民としてともに暮らしながら、雇用や住宅への入居に関して差別を受けることも少なくありません。近年では、差別をあおるヘイトスピーチなども起きています。「ともに生きる」ということの意味を、改めて考えることが大切です。 (51頁)
ひどい歴史偽造。検定をなぜ通るのか。

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この記事を書いた人

昭和24年、埼玉県生まれ。昭和59年、大宮市の小学校教員に採用される。大宮教育サークルを設立し、『授業づくりネットワーク』創刊に参画。冷戦崩壊後、義務教育の教育内容に強い疑問を抱き、平成7年自由主義史観研究会(藤岡信勝代表)の創立に参画。以後、20余年間小中学校の教員として、「日本が好きになる歴史授業」を実践研究してきた。
現在は授業づくり JAPAN さいたま代表として、ブログや SNS で運動を進め、各地で、またオンラインで「日本が好きになる!歴史授業講座」を開催している。
著書に『新装版 学校で学びたい歴史』(青林堂)『授業づくりJAPANの日本が好きになる!歴史全授業』(私家版) 他、共著に「教科書が教えない歴史」(産経新聞社) 他がある。

【ブログ】
齋藤武夫の日本が好きになる!歴史全授業
https://www.saitotakeo.com/

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