新しい歴史教科書をつくる会埼玉支部の通信



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古くからの友人である篠原寿一さんから折に触れて表記の通信が届きます。先月は歴史・公民教科書の採択が終了したという記事でした。篠原さんは、7月10日の蓮田市教育委員会、第23共同採択区の合同採択会議、横浜市教育委員会の採択会議を実際に傍聴されて報告しています。たいへん興味深く教えられることの多い記事ですので、ぜひみなさんにも読んでいただきたく思い、篠原さんの許しを得て紹介することにしました。

とくに心に残ったのは、蓮田市教育長の発言でした。

歴史教科書の段になると最初に教育長が口火を切り、「自由社が良いと思います。」と発言しました。過去の採択会議ではいつも、自由社が取り上げられるのは意見交換の最後に付けたしのように出て来たものですが、今回は違いました。教育長は推薦理由として、東京裁判を詳しく書いていることを挙げ、自分も東京裁判はおかしいと思っていた、と続けました。(以上引用です)

が、蓮田市は4つの市の共同採択区に含まれ採択会議ではまったくの少数派で終わったようです。横浜市の採択過程もひどい内容だと思いました。

20年前よりもいまはつくる会の運動を理解する方や応援する方もふえてきました。しかし多くはSNSなどで投稿したり関連のセミナーやイベントに参加するなどの活動が中心のようです。教科書展示会に足を運んだり、教育委員会や採択会議を傍聴に行ったり、市や教育委員会に提案をしたりという現実に触れる活動を、長い年月、地道に続けている篠原さんたちの活動を見るとほんとうに頭が下がります。

ちなみに、今月の埼玉支部の活動は「今年度の採択資料の収集(歴史・公民)」だそうです。
「地元教育委員会の採択会議の議事録、及び採択会議で教育委員に配布された資料の収集です。つきましては、お忙しいところお手数をお掛けして恐縮ですが、地元教育委員会に対して関係する資料の請求をお願いします。議事録は教育委員会のホームページに掲載されていますが、会議で配布された資料は市町村窓口で公文書開示請求書を提出する必要があります」とあり、依頼状が添付されてありました。

なお、自由社の歴史・公民教科書は埼玉県では採択されませんでした。伊奈学園中学校が育鵬社の教科書を採択しています。

では以下に、8月号の通信を掲載します。どうか最後までお読みください。

 令和6年8月(第49号) 発行者 新しい歴史教科書をつくる会埼玉県支部編集者 篠原寿一

令和7年度から使われる中学校教科書の採択が終了

「新しい歴史教科書をつくる会」埼玉県支部長 篠原 寿一

●はじめに

中学校の教科用図書(教科書)は昨年度文科省の検定を受けて、この3月に発表された合格教科書が4月に教科書会社から一斉に教育委員会に送られて、教育委員会による採択作業が進められました。各教育委員会の管轄下にある公立中学校が来年4月から向こう4年間使う教科書を決める教育委員会の採択会議が7月から8月に掛けて各地で開かれました。

私は7月10日に開かれた蓮田市教育委員会、7月16日に開かれた第23共同採択区(蓮田市・幸手市・白岡市・宮代町)の合同採択会議、そして8月2日に開かれた横浜市教育委員会の採択会議を傍聴しました。蓮田市教育委員会の傍聴者は私一人だけ、合同採択会議の傍聴者は12~3名、横浜市教委の傍聴者は希望者多数の為事前に抽選があり、私は幸いにも当選して20名ほどの傍聴者の一人となりました。

また、私は第23共同採択区の教科書展示場に出向き、各社の歴史教科書を中心に見本本を読み比べました。教科書展示場はこれまでもずっとそうでしたが2~3名が閲覧している程度で、世間での関心はほとんどないように見受けられました。

それぞれの採択会議の様子を以下にご紹介します。

蓮田市教育委員会の採択会議

 採択の科目は、国語、書写、地図の順に進み、その次が歴史教科書でした。協議は、各教科について教育委員がそれぞれ意見を述べ、次に、事務局(調査員)による各教科書についての調査報告があり、それに関する教育委員との質疑応答になります。それが終わると、次の科目に移ります。

 歴史教科書の段になると最初に教育長が口火を切り、「自由社が良いと思います。」と発言しました。過去の採択会議ではいつも、自由社が取り上げられるのは意見交換の最後に付けたしのように出て来たものですが、今回は違いました。教育長は推薦理由として、東京裁判を詳しく書いていることを挙げ、自分も東京裁判はおかしいと思っていた、と続けました。

埼玉県下中高一貫校を除くすべての公立中学校で使われている東京書籍の教科書では、東京裁判については本文にわずか一行「戦争犯罪人(戦犯)と見なした軍や政府などの指導者を極東国際軍事裁判(東京裁判)にかけ」と書かれているだけです。東京裁判がどのような裁判だったのかの説明もなく、また「日本はどのようにして日中戦争を起こし、人々にどのような影響をあたえたのでしょうか。」と、あたかも日本が中国に戦争を仕掛けたように書く教科書ですから、日本の戦争犯罪人が裁判にかけられるのは当然と中学生は思うでしょう。しかし、このようにして歴史を学んだ中学生に「教育基本法」第2条(教育の目標)に書かれている「我が国と郷土を愛する」心を育むことが出来るのでしょうか。

それに対して自由社の教科書は、本文で、東京裁判は国際法上疑問があるという批判もあると述べた上で、「占領下の検閲と東京裁判」という2ページ立てのコラムで、東京裁判の欺瞞性を詳しく記述しています。更に、この度検定に合格した教科書では、日中戦争の始まりといわれる盧溝橋事件は日本ではなく中国側に責任があることも詳しく書かれています。

また、蓮田市教育長は、自由社の教科書では渋沢栄一が2ページに渡るコラムで詳しく紹介されていることも評価して、埼玉県の生徒には是非使ってもらいたいと思うとの意見を述べました。

 しかし、別の委員は、小学校からのつながりで東京書籍が良い、自由社の教科書にはQRコードが付いていないが東書はそれが充実しているという発言もありました。ここから先は、教育基本法や学習指導要領を踏まえてどちらの内容の方が歴史を学ぶ上で意義があるのかの議論に発展することを期待しましたが、それぞれ単に意見表明するだけで、それを掘り下げる協議はありませんでした。

事務局からは自由社について、QRコードはないが人物のコラムが充実している、渋沢栄一をはじめ人物が多数登場しているのが良い、などの調査結果が朗読されました。どの教科書を採択するかの決定は、すべての科目についてこのような教育委員の意見表明と事務局の調査報告を繰り返し、全ての科目でこのような手続きが終わった後、非公開で、教育委員の投票によって決めるとのことでした。結果は9月まで非公開とのことです。したがって、どの教科書が採択されたかは分かりませんでした。

●第23共同採択区の採択会議

 蓮田市教委の会議から6日後の7月16日に開かれました。出席者は3市1町教育長と補佐役(教育部長か?)の2名で、合計8名でした。採択の科目は、国語、書写、地図の順で蓮田市教委の会議と同じ順番でしたが、会議の進め方がやや異なりました。初めに、衝立で仕切られて顔の見えない場所で、教科書選定委員の一人が、対象科目のすべての教科書の調査結果を朗読し、その後、質疑応答があります。公開会議はここまでで、その後非公開となり、傍聴者は会議室から退出を求められ、傍聴者のいないところで協議と投票が行われます。それが終わると傍聴者は呼び戻され、次の科目について同じことが繰り返されます。

 「歴史教科書」の段で、各教科書の調査結果の朗読の後の質疑応答で気になるところがありました。まず、出席者の一人から、QRコードの先にはどのような内容が表示されているのかという質問があり、回答者(調査員)は、大略「歴史教育は(生徒が)主体的、平和的に生きることを目標にしているので、内容も多岐にわたります。」と答えました。しかし、教育基本法にも学習指導要領にも、歴史教育の目標はこの回答のように書かれているわけではありません。調査員が歴史教育の目標を勝手にすり替え、それを念頭に置いて教科書を評価していたということが露わになりましたが、こんなことでは教育基本法や学習指導要領に沿った教科書は選べません。このことについて出席者からは、そのことを指摘する発言は何らありませんでした。

 また、蓮田市教育長から、「歴史を通じて現代を知ることが大事ですが、東京裁判について選定委員会で各社の比較をしましたか。」という質問があり、これに対して回答者は「東京裁判については比較をしませんでした。南京事件については議論しました。(南京事件は)最近研究が進み、各社の書き方はいろいろあります。何も書かない教科書もあります。」と答え、それでこの件は終わってしまいました。これもおかしな問答です。教科書を選ぶのは教育委員であって調査員ではありません。教育委員が東京裁判について各社がどのように書いているかが重要と思えば、調査員にその旨指示すべきです。それをしないで、調査員任せで報告書をつくらせ、それで諒とするのは教育委員の権限放棄にも等しいものです。

 教育委員は教育基本法や学習指導要領をよく頭に叩き込んで、それに沿った教科書はどれかを見極めるよう調査員に指示する姿勢が重要であり、それこそが教育委員の役割であることを自覚して欲しいものです。

横浜市教育委員会の採択会議

過去の採択で、ほとんどの教育委員会は、教育基本法や学習指導要領の要旨が教科書に書かれているかどうかは議論にならず、見栄えや色のきれいさ、小学校社会科との連続性、多面的・多角的なものの見方などを重視して、先人の偉業や日本の伝統・文化を子供達の誇りと自信に結び付ける視点は無視でした。

この度の横浜市教委の協議会は、これまでのように見栄えや色がきれいといった言葉は巧妙に隠されて表には出てきませんでしたが、実態は、旧態依然でした。それを巧妙にカモフラージュしていて、議論の装いをしていましたが、本来の教科書選びとは程遠いものでした。ここでも採択の科目の順番は、国語、書写、地図、歴史、公民、・・・でした。この順番は、どの採択会議でも一緒のようです。

横浜市教委の場合、科目ごとに、初めに調査員の各教科書の調査結果が朗読され、

次いで教育委員の意見表明があり、続いて教育委員の無記名投票がありました。投票は公開で、投票後直ちに開票・集計され、その結果が直ぐに発表されました。 

 横浜市教委は、全科目共通に、採択の視点として次の3つを掲げています。

  • 教育基本法、学校教育法及び学習指導要領の趣旨を踏まえ、各教科の目標の実現や指導内容の充実に適したものであること
  • 「横浜市教育ビジョン2030」及び「横浜私立学校カリキュラム・マネジメント要領」に基づく学習活動に適したものであること
  • 児童生徒が学習するに当たり使いやすい工夫があることや、障害その他の特性にかかわらず読みやすい工夫があること。デジタル教材の活用の工夫があることや、教科書の用紙やインキなど環境面に配慮した工夫があること

この3つの視点には更に、視点1は3つの観点、視点2は6つの観点、視点3は2つの観点が列挙されていて、教委が任命する調査員は採択対象教科書のうちどの教科書がこの観点に適合しているかを調査して「教科書取扱審議会」に報告をする、という流れになっています。

採択協議会では、はじめに教科書取扱審議会がまとめた報告書が読み上げられ、それに基づいて教育委員が意見表明しますが、驚いたことに、視点1についてはどの科目についても報告書で「全社が適合している」の一言で片づけられて議題にならず、議論は視点2と視点3だけでした。

「社会(歴史的分野)」では、特に1の視点こそ議論されなければならない部分です。これについては教科書ごとに随分と違いがあり、「我が国と郷土を愛する」「我が国の歴史に対する愛情、国民としての自覚」などを深める教科書はどれか、が最も採択で重視されなければならないはずですが、調査員も教育委員もまったくその自覚はないようでした。

教育委員の発言も歴史教育の目標からかけ離れていて、歴史的出来事を実社会につなげる意識が大切だとか、基礎的知識をこれからの社会で活用することが大切だ、各時代の特色を現在と比較することが大切だ、歴史の学びからこれからのグローバル社会を構想することが生徒に求められている、(歴史教育は)現代社会の問題解決のヒントになる、などの意見が(何の恥じらいもなく)堂々と語られていました。語られたというよりも予め紙に書かれた文章を読んでいるだけで、シナリオの決まった子供劇を聞いているような印象でした。余りに淀みない発言(朗読)を聞いていて、結構リハーサルもしたのではないかとも思われました。無記名の投票結果は6名の教育委員全員が、歴史、公民とも帝国書院に投票しており、これもとても不自然な印象を受けました。

●おわりに

 1989年に冷戦体制が崩壊し、こらからは平和な時代になるかと人々は期待しましたが現実はそうはならず、最近は19世紀に逆戻りしたような世界情勢になっています。これまでの日本はアメリカの圧倒的な軍事力を頼りにして経済第一主義に没頭してきましたが、アメリカはもはや世界の警察官ではないとアメリカ大統領が宣言するほどにアメリカの国力も減退しています。

 一方で日本は、戦後の東京裁判で日本は悪い国だと断罪され、21万人余が公職追放された地位に共産主義者をはじめ敗戦利得者が入りこみ、その人脈が今も続いています。5年ごとに行われる「世界価値観調査」(18歳以上の男女対象)の2021年の質問「もし、戦争が起こったら、国のために戦いますか」の回答は、日本は「はい」が13.2パーセントで世界最下位でした。

 今、日本は、本当の歴史を取り戻し、子供達が自国の伝統や文化、先人に誇りを持ち、自分に自信を持てる、すなわち、愛国心を育む教科書が採択されることが強く求められています。その役割は、教育委員会が握っていることを自覚して欲しいものです。

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この記事を書いた人

昭和24年、埼玉県生まれ。昭和59年、大宮市の小学校教員に採用される。大宮教育サークルを設立し、『授業づくりネットワーク』創刊に参画。冷戦崩壊後、義務教育の教育内容に強い疑問を抱き、平成7年自由主義史観研究会(藤岡信勝代表)の創立に参画。以後、20余年間小中学校の教員として、「日本が好きになる歴史授業」を実践研究してきた。
現在は授業づくり JAPAN さいたま代表として、ブログや SNS で運動を進め、各地で、またオンラインで「日本が好きになる!歴史授業講座」を開催している。
著書に『新装版 学校で学びたい歴史』(青林堂)『授業づくりJAPANの日本が好きになる!歴史全授業』(私家版) 他、共著に「教科書が教えない歴史」(産経新聞社) 他がある。

【ブログ】
齋藤武夫の日本が好きになる!歴史全授業
https://www.saitotakeo.com/

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