「皇国史観」と「日本が好きになる!歴史授業」14 (授業づくりのなかで10   その後のいくつか)



日本史ランキング
クリックお願いします!別ウィンドウが開きます

武力において圧倒的だったにもかかわらず、源頼朝が天皇から征夷大将軍に任命されて幕府を開く道を選んだことを知ると、それまでの議論は置いて子供たちはなぜかとても喜びます。多くの子供たちは喧嘩が強いやつがイチバン!みたいな思想を好みません。また、日本以外の世界の国々は戦争に勝った者がトップになって「○○氏の国」に変わっててきたことを知ると、ずっと天皇の国日本だった日本の独自性を誇りに思います。頼朝も聖徳太子の大方針「天皇中心の国」を受け継いだんだねという物語になります。

(注)源氏三代までは鎌倉は東国政権です。鎌倉幕府が実質的な統一政府になるのは承久の変以降ですから、中学校では承久の変の授業がもうひとつの柱になります。後鳥羽院と北条義時との戦争は史上初の朝廷対幕府の戦争です。また、源氏三代は清和天皇の子孫ですか幕府も天皇のお身内でしたが、北条の幕府は実質的に一般ピープルの政権です。日本史上画期的な事件でした。しかし北条義時を「逆賊」扱いにはしません。

次に「天皇中心の国」がテーマになる教材は南北朝時代です。戦後の小学校の教科書には後醍醐天皇は出てきません。中学校では出てきますが戦前の皇国史観のような重要人物ではありません。

「皇国史観」では、ご後醍醐天皇は神武天皇の次に重要人物でした。建武の中興といいました。神武天皇が建国した天皇の国(皇国)が武士によってないがしろにされてきたのを後醍醐天皇が復興して武家が政権を奪ったことをとがめてくれた(中興)。しかし足利・徳川と身勝手が続いたが、いま明治維新でその間違いが正されて、ようやく神武天皇の建国した天皇の国が再興するのだという物語だったからです。つまり、皇国史観の「天皇の国(皇国)」とは「天皇親政の国」ということなのでした。

「日本が好きになる!歴史授業」が神話・神武の次に物語を問われたのはここでした。意味が分かるまで少し勉強しなければなりませんでした。その一つが南北朝正閏事件でした。南北朝正閏論で検索していただくとこのブログのどこかに入っていると思います。参考にしてください。

結果つぎのように整理した。
・立憲主義&象徴天皇制の歴史が「天皇中心の国」の史実であったという歴史観に立つことにしよう。実際、天皇親政が「天皇中心の国」の歴史だとするのには無理がある。天皇親政とは「危機の時代に天皇が国を救う際の非常手段」だったというのが現実的な見方(歴史に即して)だと思える。


・危機の時代とは、大和朝廷の建国(または律令国家建設)時代、朝廷か武家かで権力の帰趨を決める時代(南北朝)、幕末から近代国家建設の時代の3回である。


・その結果、授業は次のようになった。
①後醍醐天皇が天皇親政を目指して鎌倉幕府を打倒した
②しかし足利尊氏らとの戦いに敗れた
③尊氏は京都に幕府を開くために北朝を擁立し、後醍醐天皇は吉野に南朝を開いた
④授業では、朝廷が二つあり天皇が二人いた不幸な分裂の時代と位置付ける。どちらが正統とはしない。
④ただし、現在の皇室は昭和に確立した南朝正統論に立って皇統は南朝で数えていることは教える。

(注)国定教科書でも南北朝正閏事件以前は、教科書でも「南朝と北朝が並立した時代」という意味で「南北朝時代」と教えられていた。しかし事件以来南朝正統論が確立して、教科書では「吉野朝時代」と呼ばれるようになり、北朝の天皇は「天皇ではない」とされた。足利尊氏は悪人になった。

その後、中世と近世の歴史授業では「天皇」ほとんどは教材にならない。だから幕末になって教科書に天皇が出てきたとき、これまで書いたような授業をしていないと、子供たちは「あれ?天皇ってまだいたの?」という反応になる。

これだと明治維新の意義やなぜ近代化が可能だったのか等々、天皇の意義についてまったく理解できないことになる。中世・近世の1000年間も連綿として天皇が京都にいらっしゃった、日本国の正統なる権威としていらっしゃったおかげで、アジアで唯一日本だけが近代化できたんだという歴史がわからない。

ここまでの授業でそれらの問題はクリアできるが、次のような工夫もしてきた。
鎌倉幕府・室町幕府・江戸幕府などが成立すると必ずその組織図が教科書に出てくるが、そのトップはどの図も将軍となっている。「日本が好きになる!歴史授業」では、各幕府のトップの将軍は「征夷大将軍」であり任命したのは天皇であることを確認し、将軍の上に天皇を図示して「任命する」と書き加えるようにしている。

そのたびに頼朝の選択を思い出して、室町幕府の将軍も徳川幕府の将軍もみな頼朝と同じ「日本らしい選択(ケンカが強いやつが日本のトップじゃない)」をしてきたことを確認するわけだ。
そのようにして、現在の内閣総理大臣(国民の選挙でえらばれる)も天皇から任命されて初めて権力者になる。
国のかたちはずっと変わっていないことに子供たちはそのたびに驚き、感動するのである。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

昭和24年、埼玉県生まれ。昭和59年、大宮市の小学校教員に採用される。大宮教育サークルを設立し、『授業づくりネットワーク』創刊に参画。冷戦崩壊後、義務教育の教育内容に強い疑問を抱き、平成7年自由主義史観研究会(藤岡信勝代表)の創立に参画。以後、20余年間小中学校の教員として、「日本が好きになる歴史授業」を実践研究してきた。
現在は授業づくり JAPAN さいたま代表として、ブログや SNS で運動を進め、各地で、またオンラインで「日本が好きになる!歴史授業講座」を開催している。
著書に『新装版 学校で学びたい歴史』(青林堂)『授業づくりJAPANの日本が好きになる!歴史全授業』(私家版) 他、共著に「教科書が教えない歴史」(産経新聞社) 他がある。

【ブログ】
齋藤武夫の日本が好きになる!歴史全授業
https://www.saitotakeo.com/

コメント

コメントする

目次