歴史入門「歴史の中にはご先祖様が生きている」
◆授業づくりの話◆
十数年も前になるが、ある教育研究会に参加したときのことだ。休憩中の雑談の中で先輩教師の一人からおもしろい話を聞いた。
「先祖の人数を計算していくと、とんでもないことが起きるんですよ。鎌倉時代の推定人口よりも、私一人の先祖の数の方が多くなってしまうんです。私たち日本人はみな千年もさかのぼればみな親戚だということなんでしょうね。」
とくに歴史の授業をテーマにした会ではなかったので話はそれきりになり、すっかり忘れてしまっていた。その話が、数年前歴史入門の教材づくりで途方に暮れていた私に突然よみがえったのである。話の脈絡もそのときほかにどんな話があったかもまったく思い出せないのだが、前述した話の部分だけを思い出したのだ。
そうだ、歴史とは先祖が歩いてきた道ではないか。そうとらえれば、たんなる物知りをつくるのではない、「国を愛する心情を育てる」歴史教育ができるのではないか。
先祖の話を思い出しこれは教材になると直感したときには、この授業の構成はほとんどできあがっていたようなものだった。それが歴史入門の授業「歴史の中にはご先祖様が生きている」である。
この授業を受けた児童は、その後の歴史学習の中で「この時代にも日本列島のどこかに私の先祖が暮らしていたんだな」「この人物の決断は、私の先祖の運命も変えたんだ」というようにとらえられるようになる。歴史上の人物や出来事を、まさに自分自身の遠い来歴として意識するようになるのである。
それは、先人の働きや国の歩みを「わがこと」として学ぶ姿勢にほかならない。歴史が好きになり、たくさんの知識も身につけるが、それらは決して他人事の知識に終わらない。みないまここに生きている「私」自身のことなのだと、そう思えるようになるのである。子供たちのこの学ぶ姿勢こそが、私の歴史教育の原点である。
歴史の授業をすべて終えた後、子供たちは「日本の歴史を学んで」という感想文を書いた。次の掲げるのはその一部である。
■日本の歴史を学んでいろんな事がわかった。歴史を学ぶ前までは先祖の事なんて考えたこともなかったけど、先祖のことを学んだ時とても感動した。勉強をして感動するなんてなんか不思議だった。
■私は日本の歴史を学んで、改めてご先祖の努力に感動した。そして、私達も愛国心を持ってこれからの時代を生き、ご先祖のつくってきた日本という国をさらに発展させていく責任があると思った。さらに、ご先祖が夢見た平和で豊かな国に住んでいる私達は、次は世界平和への道へと進んでいく必要もあると思った。
全六十八時間の学習を終えて、半年前の最初の授業を覚えていることもすばらしいが、最初に学んだことがその後の学習の中にも生き続けていたことがわかるのである。
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