武士道と忠義
●江戸時代になると、武士道の中心的徳目である「忠義」が、特定の君主への忠義から、その君主が代表している国家(藩)という公共性への忠義へと変わっていきます。この授業は、武士が命をかけた忠義について考えます。
1 忠臣蔵
*1702年 元禄15年12月14日 江戸の町を揺るがした大事件が起きました。
『どんな事件でしょうか?』
*知っている児童がいれば発表させます。
【赤穂浪士の吉良邸討ち入藩】です。
*元赤穂藩の藩士47名が、吉良上野介の首をはね、主君浅野内匠頭のかたきを討った。リーダーの名元国家老の大石内蔵助。主君、浅野内匠頭と吉良上野介の関わりから、簡単にあらすじを話します。
主君の辞世
風さそふ 花よりもなほ 我はまた 春の名残を いかにかはせん
は板書して読ませる。
この歌にある主君の思いを受けて仇討ちをして、その後、全員が切腹して果てた。
『今日は武士の理想の生き方=武士道について考えます』
2 「武士道とは死ぬことと見つけたり」佐賀藩の心得集「葉隠」
板書「武士道とは死ぬことと見つけたり」
説明 武士道・・・武士の手本となる生き方。
見つけたり・・・・「~とわかった」
『これはどういう意味でしょうか。説明してみましょう』
*発表させる。
『武士道とは「死ぬ覚悟を持って生きる」ことだということです。「武士は常に死ぬ覚悟を持って生きることが大切である。そうすることによって、家来としてのつとめをはたすことができる」と「葉隠」に書いてあります』
3 忠義と諌言
*板書 「 忠義 」
『これは「主君に真心をつくして仕えること」です。もちろん場合によっては命をかけてです。ビシが最も大事にした理想の生き方がこの「忠義」です』
みなさんは江戸時代の理想の武士になってみてください。
聞きます。
もし主君の命令が間違っていると思ったらどうしますか?
あなたの考えに近い方を選びなさい。
A 主人の命令は絶対であり、自分をおさえてだまって主君にしたがうのが忠義だ。
B もし主君の命令が間違っているのなら、主人の間違いを教えて正させるのが忠義だ。
*理由をノートに考えを書かせる。
*A、B、それぞれを挙手させ、人数分布を板書する。
*それぞれの理由を発表させる。
*資料を配り読ませる。
資料「葉隠」
「さて気にかなはざることことは、いつまでも、いつでも、訴訟すべし」
★どうしても信念を持って納得のいかない命令であったら、主君にどこまでも諌言して、
考え直していただくようにすべきである。
「主君の御心入れを直し、御国家を固め申すが大忠節なり」
★主君の間違った心構えを正しく直して、藩をしっかりと建設するように努力することこそが、真の忠義(主君に真心を尽くすこと)である。
●江戸時代の武士はBが正しいと考えていたことを確認する。
4 「主君押込」の慣行
『では、いくら諌言しても行いを正さない殿様だったらどうしますか。
ぜいたくを好み、遊んでばかりの殿様で、領民が重税で苦しんでいる。そういう政治を行う主君だったらどうしますか?』
A:だまって従う。
B:幕府に言いつける。
C:ろう屋にとじこめる
*上と同様に進める。
【正解はC】
Bは、藩がつぶされてしまうなどの危険があることをおさえる。
*「主君押込」と板書し、読み「しゅくんおしこめ」を教える。
*全国各地の藩で行われた慣行だったこと。これは家来の反乱ではなく、正しい家来としての行いと認められていたことを話す。
*ただし、勝手にどんなときでもというわけではない。
*以下を説明する。
●藩の民が苦しんでいる場合にかぎること。
●次のような、正しいやり方の通り進めなければならない。
1 家老達は何度も諌言して正しい政治を頼む。
2 どうしても聞いてもらえないことを確かめる。
3 家老や家臣が集まって話し合い「仕方がない、主君押込をやろう」と決める。
4 殿様が大広間に現れるのを待って、みんなで殿様の前に座る。
5 押し込め宣言「殿の行いは正しくない。反省していただきます」と言う。
6 家臣達で殿様を取り囲み、刀を取り上げ、身体を取り押さえる。
7 ろうやに閉じこめてからも、家老達は殿様と話し合いを続け、心を入れ替えていい政治をすると約束したら出す。
8 もうひとつ「このことで仕返しはしない」と約束させ、その約束を書かせる。
5 武士道と真の忠義
『武士の理想の生き方「武士道」のなかで、特に重要なのが忠義でした。 それは自分の殿様に忠節を尽くすと言うこと、殿様のために真心を込めて尽くすこと、そのためには命も投げ出す、いつも死を覚悟して生きるという心です。しかし、江戸時代の武士は、場合によっては「主君押込」こそが、主君への忠義だと考えていたことがわかります』
「主君押込」は、どうして主君に対する忠義なのですか。
*発言させ、ほめる。
*資料を読ませる。
上杉鷹山『伝国の詞』
*米沢藩の藩主。あとつぎのために藩主の心得を説いた。
一、国家(米沢藩)は先祖から子孫へ伝えていくものであって、藩主の私有物ではない。
一、人民は国家(藩)に属するものであって、藩主の私有物ではない。
一、国家と人民のための藩主であって、藩主のための国家と人民ではない。
*少しむずかしいので解説してまとめとします。
『藩の殿様は、藩と民衆のためにいるのですから、藩と民衆のためにならない政治をしていたら、それを改めさせるのが、本当の忠義になります。
藩主個人の言うことを黙って聞くことが忠義ではなく、政治が藩と人民のためになっているかどうかを見きわめて真心を尽くすこと、そのためにはいつ死んでもいいという覚悟を持って生きること、それが真の忠義なのだということですね。
この武士道の理想は、やがて明治維新を支えた英雄達の心につながっていきます』
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